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せせらぎのニハ


















少し前まで芝畑だったであろう草原と、平地林が点々とみられる北関東平野特有の景色。
変形地の境界ラインを感じさせないように、隣地の平地林を味方につけ、草原と繋げるように芝の土手を境界とした。
かつて平地林は、地力の乏しい地での畑作農家が再生産を維持するため、草木灰や刈敷、落葉堆肥の材料供給源として、また、燃料になる薪、家屋や納屋の補修材、屋根葺き材料のカヤなどの入手、食用の山菜やキノコ、薬草の採取など、生活に密着した存在であった。
それだけでなく、防風林としての役目、降雨を保水しておく機能、そして、身近で四季の変化を感じる場、と人が作った自然は、持続的に自然と共存するシステムを兼ね備えていた。
高度成長期になると落葉堆肥が化学肥料に、薪や炭は、石油やガスにかわり、かやぶき屋根も、トタンやスレートの屋根へと変化し、人の営みのサイクルから切り離された平地林は、開発区域の対象になり、ゴルフ場、工場や住宅団地に姿を変え、失われていった。
現在、ところどころ残る平地林は、人の手が入らなくなり荒廃してしまっているのが現状だが、施主の様に平地林に魅力を感じ、そこに吸い寄せられてくる人々が現れているのも現実である。
施主からの要望は「平地林との繋がり」「薪割や、薪棚を景色に」「地中環境の改善」「草が生えるような駐車場」「薬品を使わない管理」と、有難い条件ばかりであり、また、「災害時の地域の防災拠点となるように」との意向もあったので、多くの人が集えるように、芝生の間とし、乾式の延べ石テラスを設けた。土地のおへそとなる部分を見つけて石積みをし、建物に誘われるようなアプローチを創出し、西側は薪棚と、コンポストを境界とした。広い芝面が単調にならないようアンジュレーションをつけ、土中の環境にも意識を払った。
庭も平地林と同じく、人の営みがあって初めて成立するものである。
人が風景になる暮らしとは、薪割する人、畑作業している麦わら帽子姿さえも景色の一部となるような暮らしである。暮らしを営む上で必要な機能が備わり、その機能が美しさを伴う場を提案していきたい。