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「おのずから」の風景









かつて、人は自然からの恵みを得る時、感謝の念をあらわしてきた。その気持ちが信仰のはじまりだ。この湧水の地に信仰の場が生まれた所以は、水であろう。 水の水平軸の世界と、精神的な垂直軸の交わるところが風景の原点かもしれない。
この古刹の新たな改修にあたり、 素朴な水面と、いにしえへの想いで静まり返る気配の創出がテーマとなり、 水の世界をどこまで拡げられるかがポイントとなった。 水に向き合う場をつくるために、現代人が作為的に足してしまったものを除した。
自己の無限小に臨み、自己を残さないことを心掛け、未生の施工法で、無有好醜の世界を目指す。 日々水を眺め、樹々と語り続け、作為的に流していた湧水を、自然の流れにし、水位を戻し、水と心がかよう気配の場にする。
威圧のない、はかりごとのない、清浄な空気が漂い始める。 誰がしたかは問題ではなく、 次に繋いでゆく道すがらなのである。
photo by Hayato WAKABAYASHI