Works

美郷のニハ

奥羽山脈の山々が連なる横手盆地の、各所で地下水が自噴するエリア。

はじめて訪れた際に目にした水板倉。

水板倉とは、水上に建つこの地域特有の穀物倉庫で、水上であるがために年間を通じて内部の環境は一定に保たれ、盗難や火災、またネズミの害などからも守る。水は湧水を引いているので、田に入れる前にここで適温に温めてから田に流したほか、鯉が飼われ、冬場の食料としていたものだ。建築家である施主のコンセプトも自然エネルギーを最大限取り込む環境建築だったため、水板倉の様な農家の長年の経験と智恵から生み出された水の文化を取り入れたものにした。

北側には、堀を創出し、北の涼しい風を取り入れるための植栽とした。庭は雨水や雪解け水を保水するための貴重な場所であるので、屋根から滑り落ちた雪が、堀にたまるようにした。

おおらかで緩やかな盛土をし、堀を強調するとともに、小さいがしっかりとマッスを持つ建物に、浮力力を持たせた。堀の効果は、豪雪の下で植物が犠牲にならない為でもある。

このエリアは散村で、それぞれの家は針葉樹の屋敷林を密に茂らせている。田園風景の中にポツン、ポツンと屋敷林があるのがここの景色である。建物の裏手にも諏訪神社の杜が守り神の様に鎮座まし、玄関を入ると、田園風景の奥に奥歯山脈が臨め、ミーティングルームからは弥之助清水の杜が景色となる。

やみくもに手を入れ、技を見せることが私達の仕事ではなく、意識を街全体に這わせ、手を入れないという選択も、景色を作る上で大切であると考える。

環境としての庭がどう育ち、地域に溶け込み、育って行くのか愉しみである。

photo by Tadayuki MINAMOTO